こんにちは、内科医のトワです。
今回は血糖値が上がったときに起こりうる症状について解説します。
どんな病気もそうですが、症状が出るのにはちゃんと理屈があります。
その理屈を、これまでに勉強した知識を踏まえて説明していきます。
これまでの記事を読んでいない方は、是非こちらもお読みください↓


無症状のことも多い
いきなり前提からひっくり返すようですが、糖尿病で血糖が高くても無症状のことの方が多いです。
実際、糖尿病の方はこの記事を読み始めて、
という人も多かったのではないでしょうか。
糖尿病を新規に発症して僕の元に紹介されてくる患者さん達も、見つかったきっかけの多くは、
「健康診断で偶然引っかかって」
「他の症状で病院を受診したら血糖値が高いって言われて」
といった状況が多いです。
しかし、中には症状を強く感じて受診される方もいらっしゃいます。
糖尿病の理解を深めるため、今回は起こりうる症状についてもちゃんと知っておきましょう!
糖尿病で出る症状は、大きく分けて
- 血糖値が高いことによる症状
- 細胞にブドウ糖が届かないことで起こる症状
の2つに分けられます。
順番に見ていきましょう!
血糖値が高いことによる症状
血糖値が高くなると、尿にブドウ糖が出るのは前回の記事で解説した通りです。

「尿に糖が出ているか」は自分では分かりませんが、
尿糖が出ることで起こる症状はあります。
ブドウ糖をはじめとした糖類は、水を引き込む性質があります。
あなたの台所で砂糖の入れ物を開けっぱなしで放置するとどうなりますか?
固まりますよね。これは空気中の水を吸ったからです。
厳密に言えばこれは原理が違うような気もしますが、「糖類は水を引き込みやすい」というイメージが湧いたでしょうか?
この「水を引き込む力」のことを「浸透圧」といいます。
そして、前回の記事で説明した「濾過」と「再吸収」のプロセスですが、
水分はブドウ糖と同様、濾過された後にほとんどが再吸収され、残った少量だけが尿として出ます。
尿の中にブドウ糖が漏れると、ブドウ糖が浸透圧の力で水を引っ張るせいで、水分の再吸収が鈍くなります。
これにより、尿の水が増えて多尿になります(これを浸透圧利尿といいます)。

尿量が増えると、失った分の水を取り戻すために、喉が渇いてたくさん水分を飲むようになります(口渇・多飲)。
以上のように、医学的な用語で言うと「口渇・多飲・多尿」が血糖値が高いことによる代表的な症状です!
ちなみに、血糖値が高くて喉が渇いているにも関わらず、糖分を多く含むジュースで水分をとろうとすると、
ペットボトル症候群(ソフトドリンクケトーシス)
という、血糖値が急上昇する危険な状態になります。
これによって糖尿病を発症する人もいるくらいなので、元気な方でもジュースをがぶ飲みするのは控えましょう。。。
細胞にブドウ糖が届かないことで起こる症状
これまでは血管側の視点で見てきましたが、今度は細胞側の視点で見てみましょう!
以前の記事で解説したように、糖尿病の方ではインスリン作用が低下することで、細胞にブドウ糖が入れなくなります。
つまり、細胞から見ると
「エネルギー源のブドウ糖は目の前にいるのに、それを利用できない状態」
というわけです。

普段、細胞はブドウ糖を取り込むことでエネルギーを得て、
- 自分の仕事をする
- 大きく成長する
- 分裂して数を増やす
といった働きをします。
そのため、ブドウ糖が入ってこなくなると、エネルギー不足によって以下のような症状が出ます。
- 身体がだるくなる(エネルギー不足そのもの)
- 体重が落ちる(細胞が成長したり増えたりできない)
- お腹が空く(エネルギー源が足りていないと身体が錯覚する)
インスリンに身体を大きくする作用があるのは以前の記事でも説明した通りです。
食事は今までと変わっていないのに「急激に体重が減ってきた」といった症状で糖尿病が判明することも多く、
この場合、かなりの高血糖が原因で身体から出るインスリンの量が急激に減っていたりします(「糖毒性」といいます)。
ただし、「体重が減っていることを全て糖尿病だけで片付けて良いか」には注意が必要です。
糖尿病以外にも体重が減る病気として代表的なものが、
- がん
- バセドウ病(甲状腺のホルモンが出すぎる病気)
です。
難しいことに、がんにしてもバセドウ病にしても、それが原因で血糖値が上がることもあります。
特にインスリンを作っている臓器である「膵臓」にがんができると、血糖値も急に悪くなり、体重も急激に落ちたりします。
「糖尿病のせいで体重が急激に落ちたんだ」と思っていると、後になって膵臓がんと判明することもあるので、我々はそうしたものもなるべく見落とさないよう診療しています。
まとめ
まとめです。
ブドウ糖には水を引き込む「浸透圧」という力があり、
尿にブドウ糖が漏れるほど血糖値が上がると、
水も一緒に引っ張られて「多尿」になります。
身体は出て行ってしまった水分を取り戻そうとするため、
喉が渇いて水をたくさんのむようになります(口渇・多飲)。
また、エネルギー源のブドウ糖は血液の中に溢れているのに、
それを細胞の中に取り込めないので、細胞が働けずに
- 身体のだるさ(倦怠感)
- 体重減少
- 空腹感
などが出たりもします。
以上が糖尿病でよくみられる症状になります。
ただし、実際には無症状の方も多いんでしたね。
いかがだったでしょうか。
ここまで見てきて、糖尿病には「痛み」や「気分の悪さ」などの、ひどく辛い症状はあまりないことにお気づきでしょうか?
しかし、血糖値が高い状態を放置すると、数年後〜十数年後〜数十年後にかけて恐ろしい「合併症」が進んでいきます…。
だからこそ、全く症状がなくても通院・治療を続ける必要があります。
合併症についてはまた次回の記事で解説します!
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